近頃,公共図書館について発言されているブロガー,ブックマーカーの皆さんに感謝を

 本館で書きかけていたら,メンテナンスに突入されてしまったので(-_-;),こちらに書き直します(あとで本館にも再upする予定です).
 今回,昨年末の「図書館民営化」論争から始まり現在に至るまで続く,公共図書館をめぐる議論に顔を出して,ご発言されているブロガーやブックマーカーの皆さんには,心の底から感謝してます.これほど図書館業界の外側的視点が活発に提示され,議論の内容が深められているのは,これまで僕が参加してきた公共図書館をめぐる議論では,ほとんど初めてではないかと(^^;).僕も既に20年近い図書館業界でのキャリアを持ち,またパソコン通信を自宅に導入してからでも10年以上の経験があり,図書館をめぐる議論もあれこれ経験してきましたが,これまでの議論は参加者にしても議論の幅にしても,どうしても業界内の域を出ず,幾つかの意味で業界の主流から外れた視点*1公共図書館を考えてきた僕は,随分ともどかしい思いをしてきました.
 それが今回,業界人のコントロールの効かないところでの議論の内容と方向の多様性に,改めてこれまでの業界内での議論が狭い土俵と了見の上に成り立っていたことを省み,少々恥ずかしい思いをしております*2.もちろん,これまで業界内で(あるいは「図書館系blog」との間で)積み重ねてきた議論がまるで無駄だったはずも無く,それはそれで豊かな実りをもたらしてきましたが,昨年業界外からも注目を浴び称賛された矢祭もったいない図書館をめぐる業界内主流派の議論が閉塞状況に陥っている現状*3を鑑みるに,ある種の限界が来ているのではないかと思わされることがあります.
 たまたま先日,僕の手元に届いた「図書館界」58巻5号(2007年1月)に例の*4「誌上討論 現在社会において公立図書館の果たすべき役割は何か」の第4回が掲載されていました.雑誌編集部が最初に提示した「お題」の筋の悪さから,この議論は実りの無いものになるだろうなと思っていましたが,今回もまさに予想通りorz 今号掲載の4本の文章のうち,最初の2本は『市民の図書館』と前川恒雄への信仰告白の域を得ず*5公共図書館をめぐる議論に資するものは何も得られなかったのです*6が,討論の最後に掲載されていた齋藤明彦氏(元・鳥取県立図書館長)の文章の,それも最終節(今号276−277頁)に至って,その深刻な指摘に慄然としました.文章が軽いユーモア交じりに務めて明るく書かれているため,その事態の深刻さが業界人の中にはわからない方もいらっしゃるかもしれませんが,齋藤氏が指摘していることは業界にとって非常に重要なことです.

「実際に図書館に携わっている者には,もう議論している時間はないと思います」(277頁)

図書館業界内の議論が閉塞状況に陥っている現状があるからこそ,webにおける現在の議論には大変な価値があると僕は受け止めています.多様な視点を提示していただいているブロガーやブックマーカーの方々に,重ねて感謝する次第です.

*1:主流派である公共図書館関係者に対して大学図書館に籍を置くこと,貸出至上主義消費財としての本,フロー重視)に対して調査・相談機能重視(資料としての本,ストック重視)であること,『市民の図書館』に対して『中小レポート』と「これからの図書館像」支持者であること,図書館原理主義に対して相対主義を採ること,関西学派に対して関東の大学出身であること,大都市圏の図書館に対して地方の図書館であること,等々

*2:この業界人の了見の狭さと言うのは実に陰湿で,議論に勝てないと見るや公務員倫理も図書館員倫理も何処へやら,論争相手のプライヴァシーをネットに暴露するくらいのことは平気でやります

*3:こちらのコメント欄参照

*4:僕が以前,こっぴどく批判した記事はこちらから

*5:ある書き手が「これまでの図書館像」が持ち出している佳例を批判するのはよいとしても,別の例を持ち出して賞賛するにもその根拠が示されていなかったり,ある例に対するヒステリックな攻撃でしかない文章を「実証的」と評したりするのは如何なものか.正直,その書き手に対する信頼が僕の中で下落したことを告白する

*6:そもそも今回編集部が新たに出した「お題」を無視して書かざるを得ないほど,『市民の図書館』をめぐる状況は悪化していると言うことか