今日の読了

荷風さんの戦後

荷風さんの戦後

 
このところ,「敗戦後」の体制の軟着陸のさせ方,というものを自分なりに考えている.何しろこの国の専門知には負け戦についての検討と,その蓄積が不足気味.僕のいる業界もそのご多聞に漏れない.現在のボスたちは1980年代までの成功体験が却って足枷になって,敗戦後のことなど考えることもできない.その「成功体験」こそが現在の敗戦にストレートに結びついているにもかかわらず,である.
仕方がないので,敗戦後の業界を軟着陸させる考え方についてひとりでモゴモゴしている.例えば,幕末維新期における随一のタフ・ネゴシエーターであり,徳川幕府瓦解後に旧幕臣の手当を新政府のあづかり知らぬところでコツコツ引き受けていた勝海舟の立場などは,なかなか参考になるところ.先日も『それからの海舟』を読み返したが,この生き方を採る向きは,殉教者志望がやたらと多いこの業界には少ないだろうなあ(^^;).
それでは,こちらの主人公である永井荷風の生き方はどうか.恐らく,業界の行く末に絶望した業界人の多くが荷風風狂や大悟に憧れること間違い無しと思われるが,そもそも業界自体が孤立している感なきにしもあらずなところであるのに,その上敗戦後には風狂を目指すというのは,いささか出来の悪いアメリカン・コメディじゃなかろうか,と思わないでもない.
 
それからの海舟 (ちくま文庫)

それからの海舟 (ちくま文庫)