今日の読了

戦火に消えた幻のエース―巨人軍・広瀬習一の生涯

戦火に消えた幻のエース―巨人軍・広瀬習一の生涯

30年ほど前,中学生の頃に読んだ『プロ野球人国記』(大道文著/恒文社)で初めて巨人軍の投手だった広瀬習一(1922−1944)の名前を知る.その後も「Number」の投手特集などでも断片的にその名前は出ていたのだが,何しろあまりに断片ばかりなので,機会を見つけて調べられたらいいなあ,と漠然と考えていたことがある.野球人でもうひとり,調べたいなと思っていたのはイーグルスの代表を務めた河野安通志(1884−1946)だが,河野については数年前『幻の東京カッブス』(小川勝著/毎日新聞社)が出て,長年の渇を癒すことができた.しかし,広瀬はよほどの通人でもなければ知ろうともしない名前だろうと思い込んでいたところ,ここに突然,広瀬を取り上げた書籍が出たのには仰天した.しかも出版者が新日本出版社という,どう考えても「巨人軍」とは相容れそうに無い出版者だったことに,さらに驚かされこれは「買い」であると,速攻でネット書店を操作したのだった.
一読してまた驚かされたのは,著者が20年以上も広瀬について取材していたこと,広瀬の親族や地元大津の関係者が生存していて著者の取材に応じていたこと,ほとんど知られていなかった広瀬の巨人軍前・巨人軍後が著者の取材によりかなりの部分明らかになったこと,広瀬の写真が僕の想像以上に残っていてこの本に掲載されていたこと,因縁のライバルが南海で活躍し肺結核のため早世した神田武夫(1922−1943)*1だったこと,広瀬の投球フォームがサイドスロー(「斉藤雅樹と小林繁を足してニで割ったような」)だったこと,などなど,挙げていけばキリが無い.要するに,僕は広瀬について何も知らなかったのだ.
哀しくも激しいこの本は,僕には永久保存の価値がある.惜しむらくは,その取材ノートが別の雑誌に掲載されてしまったことくらいだ.取材ノートが章を改めてでもこの本に載っていたら,本体2500円でも惜しくなかったのに.別途,取材ノートも入手しなければなるまい.
 
そういえば,創設時阪急のエースだった北井正雄(1913−1937)の本も出ている*2名古屋軍のエースだった村松幸雄(1920−1944)の本もある*3.勝手なお願いで恐縮だが,誰か朝日軍のエースで541回3分の1という空前絶後の投球回数記録を残した林安夫(1922−1944)について調べ,書いてくれるひとはいないだろうか.

*1:神田のことは『真説・日本野球史』(大和球士著/ベースボールマガジン社)が,あまりにも早く一瞬の閃光のように職業野球をかけぬけた,その面影をいまに伝えている

*2:『忘れられた名投手−北井正雄と野球のぼせモンたち』(高井正秀著/文芸社

*3:『戦場に散ったエース−投手・村松幸雄の生涯』(進藤昭著/同時代社)